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「ずっとビビりながら進んでいくんだと思います」
206 TSU MA MU 八重一雄さん
臆病者/キッシュ力/「やりたい」を見つける仕事/家族にそうするように/走れるデブ/子供の頃から決めているルール/挑戦する仲間/ヒトコト/求人情報
臆病者
気の小さい人、弱い人、怖がりな人/読み方:おくびょうもの
辞書には、それはそれはネガティブな言葉が並んでいた。八重(やじゅう)さんを取材する前は、私もこの言葉に同じようなイメージを持っていた。“恐れず大胆に行動すべき”そんな風にさえ考えていたと思う。今は違う。八重さんの考え方、働き方に触れて、そんな気持ちは微塵もなくなっていた。「恐れずにどっしりしている人を見てると『かっこいいなぁ』って思います。でも僕の場合、一生そうはなれない。ずっとビビりながら進んでいくんだと思います」“臆病者の方が信頼できる” 自身の事を「ビビリ」だと笑顔で話してくれた八重さんとの取材の後、自分の考え方が大きく変化している事に気が付いていた。
キッシュ力
瀬戸内海に手の届きそうなその場所に、カフェや雑貨屋、美容室など、すてきなお店が建ち並んでいる。ここは北浜アリー。倉庫をリノベーションしたショッピングエリアだ。行き交う家族やカップルからこぼれる笑顔を見ていると、この辺り一帯には他とは違う、ゆったりとした時間が流れている気さえする。そんな北浜アリーの一角に、八重さんが経営するキッシュ専門店206 TSU MA MU(以下、ツマム)はある。2015年夏のオープンから今年で3年目。常に20種類以上というメニューの豊富さと、瀬戸内の食材にこだわった確かな味で、たくさんの人に親しまれている。
「あの時は、正直、潰れる覚悟でしたね」キッシュ専門店という珍しい業態にチャレンジした時の気持ちを、八重さんは語ってくれた。「最初に奥さんと2人で始めた時は、今ほど専門店という感じではなかったんです。おかずやスープも出してました。でも、始めて3、4ヵ月くらいで奥さんの妊娠があって、僕が1人でやらざるを得ない状況になったんです。もう1人手伝ってくれる人もいたんですが、今までの通りの営業をしていくのは、不可能でした。その時に、キッシュに絞ろうと考えたんです。リスクも大きかったので、もちろん相当ビビってましたよ(笑)」オープンして間もなく訪れた方向転換の契機。もちろん不安な気持ちもあったが、八重さんは思い切って舵を切った。「どうせなら、他の追随を許さないぐらいのキッシュ力で勝負しようと思ったんです。そのためにキッシュの研究もしましたし、少しでも知ってもらえるようにイベント出店も積極的にやりました」こうして現在のスタイルを確立していったツマム。八重さんはその後も努力を惜しまず、ひたむきにキッシュに向き合い続けてきた。世界中から多くの人が訪れる瀬戸内国際芸術祭の翌年にあたる今年、前年に比べるとどうしてもペースが落ちてしまいがちだが、ツマムには昨年よりも多くのお客さんが訪れている。ビビリながらも磨き続けたキッシュ力、いつしか本物になっていた。
「やりたい」を見つける仕事
「一緒に働いてくれるスタッフです」八重さんに、日頃一番大切にしていることを聞いた時だ。「お客さんももちろん大事なんですけど、その前に、働いてくれる人がいなかったらできないですよね。一緒に働く人には本当に感謝してます。だから、みんながやりたいって思っていることを、なるべく言って欲しいんです。僕のアイディアもみんなのアイディアも、基本的には同じなんですよ。店長のアイディアだけが正しいわけじゃない。誰が言ったことであっても、お店にとって良いことなら、一緒にやりたいですよね」一緒に働いてくれる人がいて、初めてお店が成り立つ。当たり前のことだが、それ故に、日頃、感謝の気持ちがないがしろになっているお店や会社が少なくない。大切なものを聞かれた時、真っ先に「スタッフです」と答えた八重さんは、スタッフの「やりたいこと」を知るようにしていた。そこに、ただ働いてくれさえすればいいという考えは、毛頭ない。そこにあるのは、やりたいことに一緒にチャレンジして楽しく働こう、というキッシュのように暖かい感謝の気持ちだけ。
そんな八重さんとの仕事には、自分の「やりたい」が見つかるきっかけがたくさん詰まっている。ツマムで働く川崎さんは、子どものようにまっすぐな笑顔で、「やりたい」に気づいた時のことを教えてくれた。「一雄さんから『どんどんコーヒーの練習していいからね』って言われて、最初は材料の事とか考えて遠慮してたんですけど、『本当に気にしなくていいよ』っていつも言ってくれるので、そのうち自分から率先して練習するようになってました。慣れたら自信がついて、お客さんに出すのも楽しくなってきたんです。気づいたら家でもやりたいなぁと思うようになって、最近ではエスプレッソマシンの値段とか調べ始めてます(笑)」
何気ないやりとりの一つ一つが、仕事を楽しくも、つまらなくもする。たかがコーヒーの練習。されど、そうした小さなやりとりの積み重ねの上に、楽しく働ける職場は生まれるのだと思う。そして、楽しい仕事は、人生の大切な彩りとなる。たくさん練習して上達した川崎さんのコーヒーを、自宅で飲んだ家族や友人が、ホッと幸せな気持ちになっている様子を容易に想像できる。
家族にそうするように
「真面目ですね。仕事に対してはすごい熱心というか、一見考えてなさそうで、色々と考えて行動してるんやなぁって思います(笑)私自身は、先のことを考えるのが苦手なタイプなんですけど、一雄くんを見てると、すっごい先の事まで考えてるなぁって感じるんですよ。お店の方向性とか、新商品、イベント出店についても、そこまで考えてるんやぁって感心してます」八重さんと共に、ツマムを育んできた妻・牧さんは、日頃の八重さんについてこう切り出した。牧さんも八重さん同様、なんだかほんわりと優しい雰囲気をまとった人。ツマムのすてきな雰囲気は、お二人のお人柄をそのまま表わしていたのか。スッと腑に落ちた。
ツマムのオープン前。キッチンからはキッシュの焼けるいい匂いと共に、牧さん達の小気味良いかけ合いが聞こえてきた。「タイマー使いまーす!」「はい、どうぞー!」「ありがとうございますー!」些細な事でも、しっかりとコミュニケーションを取る。それは、単に相手に伝えるという事だけでなく、お互いに気持ちよく仕事をするために、必要な事として行われているように見えた。そのことを牧さんに伝えると「スタッフ同士、ちゃんと気持ちを伝え合うって事は大事にしてますね。1人でやっているわけではなくて、みんなでやってるので、そこは大切にしてます。自分の気持ちを言いやすい雰囲気にしたいんです。私も言いたいし、なんでも言って欲しい。仕事をしてると、時にはお互いに言いにくいこともあるけど、そういう時こそ、しっかりと気持ちを伝えられるように、普段からコミュニケーション取ろうと思ってます。私自身が、プライベートでも、仕事でも、なんでも相談したいタイプなんです(笑)」夕方になると、ツマムには八重さんの愛娘さくらちゃんが保育園から帰ってくる。みんなからの「おかえり」が、いつもの光景。仕事と暮らしの距離がほとんどない。そんな八重家にとって、スタッフはきっと家族のような存在なんだろうと思う。嬉しいことや悲しいこと、人生相談だって話せる。家族にそうするように、スタッフに接したい。そんな気持ちが、笑顔から溢れている。
走れるデブ
「イベントに出店した時とかに隣になって、そこから仲良くさせてもらってます。で、まぁ好青年なわけですよ(笑)」八重さんのことをよく知る雑貨屋「サンリンシャ」の蓮井さんにお話を伺った。八重さんとバンドを組むほど、プライベートでも仲が良い蓮井さん。「すごく面倒くさいんすけど、めっちゃいい人です(笑)」八重さんからそう紹介されていたので、多少覚悟はしていたが、思った以上の個性派。「写真は魂が抜ける気がするので…」と、顔を写すのは断られた。それでも八重さんについては、ポロポロと、独特の言い回しを交えながら話してくれた。「八重さんは好奇心旺盛のまま大人になってる人ですよ。自営すると自分の時間がなくなるはずなのに、色んな音楽とか知ってるし、やりたいことやってるイメージがあります。それでいて、すごい真面目。一回、台風が来た時に、僕は店をお休みしたんですよ。その時、八重さんから怒られたんです『休んだ分だけ売り上げ減りますよ』って。彼はお店開けてたらしいですね。土嚢とかやったりしてたみたいです。一見、チャラチャラしてるようで意外に真面目なんですよ。走れるデブみたいなギャップがありますね」
分かるような分からないような例えに隠れてはいるものの、蓮井さんが八重さんをリスペクトしている気持ちはよーく伝わってきた。きっと互いにそうなんだろう。八重さんが「めんどくさい」と紹介してくれた蓮井さんのお店は、どれも素敵でワクワクするこだわりの商品ばかりが並んでいる。業種は違えど、仕事に対する基本的な姿勢は共通している。お二人とも、真面目なのだ。
子どもの頃から決めているルール
「週に1度もいけないですし、多分一生うまくならないんだろうなぁとは思うんですけど、やっぱり自然を相手にする所が楽しいですよね」八重さんは、4年前、地元香川県に帰って来てから始めたというサーフィンの話をしてくれた。時間があると、出勤前でも高松から車で2時間かけて、高知の海に行くほど夢中になっているという。「自然相手だと、自分じゃどうしようもない所がたくさんあって、逆にそれが面白くて続けてます。サーフィンやるようになって、覚悟を決めるのが上手くなった気がしますね。大きな波に向かう時もそうですし、波が無くて諦める時もそう。こけて波に巻かれたりすると、太刀打ちできないんですよ。その時はどうしようもなくて、何もしないでおこうってなるんですよね。これって、仕事も同じで、どうしようもないことがあった時に、スパッと判断ができるようになってると思いますね」
「大きな波がある時なんかは、内心めちゃくちゃビビっているんですけど、『いや、全然いけるっす』って感じを出していきます(笑)基本ビビリなんですが、ワクワクすることに向かっていくことは好きなんですよ。仕事の時も、ビビってないように見せかけるために、色んなことに挑戦してるのかもしれないですね」職業柄、色んな経営者に会うことが多いが、ここまで自分の事を「ビビリ」と形容する人は珍しい。もちろん、全く臆病にならない人がいないことは確かだが、多くの経営者の場合、自信や強い気持ちが前に来る。それでも、目の前の経営者は少し違った。自分の弱さに自覚的だ。しかし、一方で、それ故の強さもあった。「やるかやらないかの選択が迫られる時ってあるじゃないですか。そういう時は、絶対やる方を取るって決めてます。これは、子どもの頃から決めているルールなんですよ。ビビってやらなかったって思われるくらいなら、やってやるって気持ちです。それで、やるって言ったからには全力でやる。もちろん失敗も多いですけど、やってダメだったら諦めつくじゃないですか。それの繰り返しで、ここまで来た感じですね」
あのイチローも臆病者だそうだ。来年は打てるか分からないという不安と、いつも戦っているらしい。ビビってるからこそ、毎日の素振りや厳しいトレーニングを欠かさない。ビビっているからこそ、成果を積み上げることができる。きっと、八重さんも同じ。ビビっていたからこそ、キッシュ力を磨き続けてこれた。ビビっていたからこそ、ツマムは多くの人から親しまれるブランドになれたのだ。臆病者の方が信頼できる。この想いは確信に近くなっていた。
挑戦する仲間
ここ北浜で、着実にお客さんに支持されてきたツマムは、2018年の夏に3周年を迎える。最後に八重さんに、今後の展望も踏まえてメッセージをいただいた。「少しずつ大きな仕事も増えてきてますし、店舗を増やそうなんて話もあります。そんな時に一緒に戦える仲間ができたらすごく心強いですね。おかげ様で、色々とお声がけいただいて、挑戦できることが増えてきました。そういう機会をスタッフのみんなと共有しながら、活かしていきたいです。もちろん僕だけのチャンスじゃなくて、スタッフの方のチャンスでも構わないです。面白い事に、一緒に挑戦していきたいですね」
時には、キッシュの持つすてきなイメージとは裏腹な、大変な事もあるのだろう。スタッフの事を「戦える仲間」と表現した八重さんの言葉には、3年間の重みが詰まっている。それでも、ビビリながらも、一生懸命に仕事して、スタッフの「やりたい」に寄り添う八重さんとの仕事は、日々成長を感じられるきっかけになるに違いない。気になる方は、是非ビビらずに、一歩踏み出してみてほしい。
(2017/12/24 秋吉直樹)
ヒトコト
店長の 八重さんからのヒトコト
障がい者
全く問題ないです。きっと、できると思ってます。今働いてくれる人と一緒ですよね。仕事を一緒にできる人なら問題ないです。
LGBT
全く問題ないです。これについて言及するほどでもないと思ってます。友達にめちゃめちゃ多いですし、東京で働いていた時に一緒に仕事していたこともあります。セクシャリティは全く問題ないです。
外国人
意思疎通ができればOKです!
65歳以上
歳ではなく、仕事の内容で判断します。ご高齢の方でも、役割はいくらでもありますよ。
子育て後の復職者
実際、奥さんがそうですし、子育て中や子育て後のスタッフは多いです。その意味では、理解のある職場だと思います。
ブランクからの復職者
履歴書にブランクがあっても全然大丈夫ですよ。僕の方がブランクがありますし、全然問題ないと思います(笑)
206 TSU MA MU
所在地
香川県高松市北浜町4-14
募集職種
店舗運営スタッフ
調理スタッフ
パティシエ
雇用形態
①正社員
②パート・アルバイト
給与
①基本給160000円~(能力に応じる)
②時給800円~
福利厚生
雇用保険、健康保険、労災保険、厚生年金保険
仕事内容
キッシュ、焼き菓子の製造、販売/店舗運営
勤務地
香川県高松市北浜町4-14
勤務時間
9:00-22:00のうち8時間(シフト制)
休日休暇
シフト制(夏季、冬季休暇有り)育児休暇有り
求める人
チャレンジ精神のある方
募集期間
随時
採用予定人数
1〜3名
選考プロセス
まずは下のフォームからお問い合わせください➡︎書類選考(履歴書・職務経歴書)➡︎面接(面接重視)➡︎合否決定
その他
面接の時は私服でお越しください